スタートアップの年収は「一律に高い」わけではない
スタートアップの年収については、「若いうちから高収入を得られる」というイメージと、「不安定で給与が低いのでは」という相反するイメージの両方が語られがちです。実際のところ、スタートアップ全体を代表するような単一の公的な年収データは存在せず、調査によって対象となる企業群や母集団が異なるため、平均額だけを切り取って判断することは避けるべきです。
民間の調査機関が公表しているデータの中には、成長期にある有望なスタートアップを対象とした調査で、比較的高い平均年収が示されているケースもあります。一方で、シード期やアーリー期にある創業間もない企業では、資金力の制約から年収水準が抑えられている場合も少なくありません。つまり「スタートアップ」とひとくくりにするのではなく、企業ごとの状況を個別に確認する姿勢が欠かせません。
就活生としては、「スタートアップは年収が高い」「スタートアップは年収が低い」といった単純なイメージにとらわれず、志望する企業がどのような成長段階にあり、どのような報酬制度を採用しているのかを具体的に調べることが重要です。年収に関する情報は、企業の採用ページや説明会、社員インタビューなど複数の情報源を組み合わせて確認することをおすすめします。
特にスタートアップは企業ごとの個性が強く出やすい領域です。一つの調査結果や一つの口コミだけを根拠にせず、できるだけ多くの一次情報にあたりながら、自分なりの判断軸を育てていく姿勢が大切です。
成長段階によって変わる年収の実態
スタートアップの年収を理解するうえで欠かせないのが、企業の成長段階との関係です。創業間もないシード期やアーリー期の企業では、事業がまだ収益化に至っていないケースも多く、限られた資金を事業投資に振り向けるため、給与水準は相対的に抑えられている傾向があります。一方で、こうした段階の企業では、ストックオプションなど将来的な報酬を組み合わせた制度を用意していることも多く見られます。
事業が軌道に乗り始めるミドル期以降になると、収益基盤が安定し始めるため、給与水準も徐々に引き上げられていく傾向があります。さらに大規模な資金調達を経てレイター期に入った企業では、大企業と遜色ない、あるいはそれを上回る年収水準を提示するケースも見られます。実際、有望なスタートアップを対象とした調査では、上場企業の平均を上回る年収水準が報告されている例もあります。
ただし、こうした調査の対象は、あくまで一定の成長を遂げた有望企業に限られていることが多く、スタートアップ全体を代表する数値ではない点には注意が必要です。志望する企業がどの成長段階にあるのかを、資金調達のニュースや事業内容から確認したうえで、年収水準の見立てを立てることが現実的なアプローチといえるでしょう。
また、同じ企業であっても、事業部やチームによって収益状況が異なる場合があります。会社全体の成長段階だけでなく、自分が配属される可能性のある事業がどの段階にあるのかまで調べておくと、より現実に近い見立てが立てられます。
ストックオプションという独自の報酬制度
スタートアップの報酬を語るうえで欠かせないのが、ストックオプション制度です。ストックオプションとは、あらかじめ決められた価格で自社の株式を取得できる権利のことで、将来的にその企業が成長し、株式の価値が上昇した場合、権利を行使することで大きな利益を得られる可能性がある仕組みです。上場やM&Aといった形で企業価値が実を結んだ際に、大きなリターンにつながることが期待されています。
スタートアップがストックオプション制度を導入する背景には、限られた資金の中で優秀な人材を惹きつけたいという狙いがあります。月々の給与だけでは大企業に見劣りする場合でも、将来性のある株式を報酬に組み込むことで、企業の成長に賭けたいという意欲のある人材を集めやすくなるのです。実際に、ストックオプションを目当てにスタートアップへの就職や転職を選ぶ人も一定数存在します。
ただし、ストックオプションはあくまで「将来の可能性」に対する報酬であり、必ず利益が得られるとは限らない点には注意が必要です。企業が期待通りに成長しなければ、権利を行使しても大きな利益にはつながりません。また、権利行使にあたっては税制上のルールや行使できる時期の条件なども定められていることが多く、制度の詳細を正しく理解しておくことが求められます。目先の給与額だけでなく、こうした制度全体を踏まえて待遇を評価する視点を持つことが大切です。
面接や説明会でストックオプションについて質問する際は、付与される株数だけでなく、行使価格や行使できるタイミング、退職時の扱いなど、具体的な条件まで確認しておくと、入社後に想定と異なるという事態を避けやすくなります。
職種やポジションによる年収の幅
スタートアップにおいても、職種やポジションによる年収の違いは大きな要素です。特に、事業の中核を担うマネージャークラスや、CTO・COOといった経営幹部(CxO)クラスのポジションでは、高い専門性や経営への貢献度が求められる分、年収水準も高く設定される傾向にあります。役員クラスや事業責任者クラスになると、年収が大きく引き上げられるケースも珍しくありません。
一方で、メンバークラスの社員については、企業の成長段階や事業内容によって年収の幅が大きく異なります。エンジニア職は、専門性の高さから比較的高い水準の給与が提示されやすい傾向がある一方、営業職や企画職、バックオフィス系の職種は、企業ごとの方針によって差が出やすい部分です。特に英語力や海外との連携経験がある人材は、海外展開を進める企業から高く評価される傾向も見られます。
就活生としては、自分が志望する職種やポジションが、その企業の中でどのような位置づけにあるのかを確認することが重要です。同じ企業の中でも、事業の中核を担う部署と、その他の部署とでは、裁量や評価の仕組みが異なる場合があります。求人票の年収レンジだけでなく、実際にどのような役割を担うポジションなのかを面接や説明会で具体的に確認する姿勢が求められます。
新卒採用であっても、配属先によって裁量や評価の仕組みに差が出ることがあるため、内定後の配属先の決め方についても事前に確認しておくと、入社後のイメージがより明確になります。
年収以外の視点も踏まえた企業選びを
スタートアップの年収を検討する際には、月々の給与額だけでなく、賞与の有無や頻度、ストックオプションの付与条件、各種手当や福利厚生といった要素まで含めて総合的に判断することが欠かせません。特に創業間もない企業では、福利厚生の制度がまだ整っていないケースもあるため、給与以外の待遇についても事前に確認しておくことをおすすめします。
また、年収の水準だけでなく、その企業で得られる経験やスキルが、将来のキャリアにどうつながるかという視点も重要です。事業づくりの初期段階から関わることで得られる経験は、必ずしも短期的な年収には反映されないものの、長期的なキャリア形成において大きな価値を持つ場合があります。目先の待遇だけでなく、数年後、数十年後を見据えたキャリアの選択肢として企業を検討する姿勢が大切です。
ここまでメガベンチャーとスタートアップそれぞれの年収事情を見てきましたが、待遇の実態を正しく理解するためには、複数の情報源を組み合わせて確認することが欠かせません。次の記事では、メガベンチャーにおける実際の働き方について詳しく解説していきます。年収だけでなく、日々の働き方の実態を知ることも、納得のいく企業選びには欠かせない視点です。
待遇に関する情報は、時間の経過とともに更新されていくものでもあります。就活を進める中で定期的に最新情報を確認し直し、思い込みのまま企業選びを進めてしまわないよう意識しておくとよいでしょう。
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